危険なモバイルバッテリーの作り方

危険なモバイルバッテリー作り方

緒言

2019年2月1日からPSEのないモバイルバッテリーが製造、販売および輸入が禁止される。それまでに売り逃げをしようと、家電量販店はこぞって安売りをした。
私もモバイルバッテリーが欲しかった。使い古したモバイルバッテリーの容量を測定したところ30mAhであった。
10000mAh台の製品はどれも2000円前後である。モバイルバッテリーの高騰が想定され、もっと安いものが欲しい。

モバイルバッテリーの中身は単純であり、筐体の中にリチウムイオン電池とその制御基板が入っているだけである。
それぞれはネットで販売されており、入手可能である。それぞれの合計は送料込みでもモバイルバッテリー1つより安い。
よって材料をそれぞれ購入し、好みのモバイルバッテリーを自作したい。

材料

4x18650 Dual USB Ports LED Display 10000mAh Battery Case Power Bank Box DIY Kit(620円)

DIY Kit

逆極性保護を搭載していると謳っているが、他の利用者によれば電池の向きを反転させたところ回路が焼き切れて使用不能となったようだ。
保護回路としてIP5305が搭載されているとの報告がある。よってセルに取り付けるタイプの保護回路は不要といえる。

NCR18650B(506円/1本)

いわゆる生セルで、リチウムイオン電池そのものの姿である。
ただ上記の製品は同型の保護回路付きで、実際に購入したものに保護回路はない。
容量は3400mAhである。購入した4本を並列に繋いで理論上は13600mAhの容量が得られる。
海外から購入したが恐らく偽物である。理由は後述。

XTAR VC4(1644円)

リチウムイオン電池の充電器である。
スクラッチを見る限り正規品のようだが、製造元ホームページでチェックはできなかった。
なおリチウムイオン電池だけでなくニッケル水素電池も充電が可能である。操作の必要はなく、自動的に電池の種別を判定し適切に充電をしてくれる。
充電した容量も確認でき、性能の評価も可能である。

USBテスター

電圧、電流、温度、通電時間を測定できる。

USB接続のライト

最大輝度における消費電力はおよそ4.96V/0.50Aである。

方法

  1. XTAR VC4によって満充電となるまでNCR18650Bを充電する。
  2. 電池の極性に注意しながら、DIYキットを組み立てる。
  3. 監視下でUSB接続のライトを光らせる。
  4. 消灯までの時間・放電容量を計測する。
  5. XTAR VC4によって再び充電し、その容量を計測する。

結果

自作モバイルバッテリーはUSBライトを15時間51分間点灯でき、それに伴う放電容量は8,251mAhであった。
その後の充電で合計11,523mAhを充電できた。

考察

DIYモバイルバッテリーに関して

私は安いモバイルバッテリーが欲しかったが、その安さは得られなかった。本体価格2644円では他のモバイルバッテリーと変わらない。

18650型リチウムイオン電池には得体の知れない9,800mhAもの容量を誇っている安いものがある。
しかし2019年の技術では3,400mhAが限界だ。だからもちろんフェイクである。外装を剥がせばノーブランドの2000mhAにも満たない容量の電池が顔を出すだろう。
そのような電池は信頼できない。だからせめて日本製を謳うセルを購入した。この時点でほぼ同容量でPSE認証を受けているモバイルバッテリーが買えてしまう。

そして結局は偽物だろうということだ。1本あたり2880mAhと決して悪い性能ではないが3000mAhは超えなかった。
スリーブを剥がして、それこそ化けの皮を剥がして真贋を確かめてもいいがもうやる気も出ない。
これなら素直に既製品のモバイルバッテリーを買うべきだろう。

充電器も別途に買った。モバイルバッテリーに充電口はあるが全く信頼できない。
全て並列に繋がれて個々のセルを認識していないと考えられる。これではセルの故障時に切り離せず、他のセルの負荷が増加すると考えられる。
モバイルバッテリーの発火事故が充電中に多いことを鑑みれば当然の措置である。

更にモバイルバッテリー筐体はプラスチックで強度に不安が残る。衝撃を与えたら中のセルまで破損させてしまうだろう。

以上の手間と費用にも関わらず無保証だ。発火して自宅全焼となっても誰も助けてくれない。頼れるのは己の五体のみとなってしまう。
自宅で充電中に発火して火事を起こす程度ならまだマシだ。公共交通機関で発火して運行を遅らせた場合、自身だけでなく他者にも危害を加えてしまう。
安価なモバイルバッテリーに保険料は含まれていない。

数々のデメリットにも関わらず得られるメリットは微々たるものだ。セルのメーカーを指定したり、自在に容量を操作できたり、繰り返して使えたり。
ただ繰り返して使える点は、事故原因がセルそのものというよりモバイルバッテリー側の回路にある場合が殆どであるためメリットとは言い難い。

500円程度の安物ではなく、このような製品ならまだマシだろう。それぞれのセルを認識し、バッテリーの向きを間違えても燃えない。

もちろん値は張る。

規制に際して

確かに年々リチウムイオン電池搭載製品の事故件数が増加している。
しかし、そもそも流通するリチウムイオン電池の数量が増えれば確率的に事故件数も増えるのだから当然と言えば当然だ。
そして経年劣化したバッテリーは新品よりも発火しやすい。

つまり「5年でリチウムイオンバッテリー搭載製品の事故が2倍以上に」というのは全く意味がない。

リチウムイオン電池出荷台数 事故件数
2012年 970,268,000
2013年 844,622,000 70
2014年 955,644,000 96
2015年 1,031,850,000 96
2016年 1,277,108,000 156
2017年 1,320,502,000 170

しかし孟子が言うには水は低きに流れる。全体数が増えれば安い粗悪品の割合も増えるといえば増えるのだろう。
だがどんなに安全を追求しても決してゼロにはならない。規制を強くしても、それは対症療法でしかない。その規制に効果はあるのだろうか?

モバイルバッテリーの駆け込み需要で粗悪品すら一気に流通して一時的に事故件数が増加する可能性があるが、長期的に事故は減るだろう。
というか減少しない、または事故増加率が低下しないならば無為に規制を増やして余計な負担をさせただけになる。

今回は経過措置の終了であるから、その前から規制は考えられていた。つまり2016年辺りから考えられていたということだ。
2016年にポケモンGoがサービスを開始した。それ以降に事故が急増しているのはポケモンGoの人気によりモバイルバッテリーの販売台数が増えたからだ。
つまりポケモンGoが事故件数増加に寄与していると考えられる。
経済産業省はポケモンGoを規制したらどうだろうか?

もちろんそんなことにはならない。ポケモンGoを規制しても政府または関連機構の利益にならないからだ。

特定電気用品を製造・輸入しようとする場合、その特定電気用品について登録検査機関による適合性検査を受ける必要がある。もちろんこのプロセスに費用がかかる。
そして製品評価技術基盤機構は電気用品安全法に基づいて製造事業者等に対する立入検査及び適合性検査について実施している。規制に際して利益を被ると考えられる。

発火に対する予防と対処

リチウムイオン電池が発火するとどうなるか、見た方が早い。

見た限り18650型より小型でもこの威力だ。余程の粗悪品か不運でなければ圧力弁で発生したガスをベントするため破裂はしないだろうが、火は吹き出す。

まずは予防について。

  • 使用中の機器がリコール対象ではないか確認する
  • 衝撃、水没を避ける。
  • 電池残量低下後に利用を停止する。
  • 充電時の監視を怠らない。
  • 必要以上に充電状態を維持しない。
  • 適切な充電アダプターの使用。
  • 高温・瞬断・膨張など異常が確認できるバッテリーの使用中止。
  • 衝撃を加えたバッテリーの使用中止。
  • 充電回数が500回を過ぎた時点で使用中止。

予防策を講じたにも関わらず不幸にして発火した場合。

  • 一刻も早く肌身から離す。
  • ガス噴出による移動を抑止。
  • 消火器、多量の水、砂のいずれかによる一刻も早い消火の試み。
  • 消防署への連絡。
  • (自作品ではない場合)製造元への連絡。

リチウムイオン電池の火災は可燃性の発生ガスまたは漏出電解液によるものである。速やかな冷却と窒息が必要である。
金属リチウムを使用した二次電池も存在し、誤作動を起こしたリチウムイオン電池に金属リチウムが析出している可能性は否定できないが、ほぼ確実にリチウムイオンの状態で存在するため消火に水を使用できる。

金属リチウムとリチウムイオンは同じだが異なる。リチウムイオンが水と反応して爆発するならば双極性障害に用いられる気分安定薬のリチウム塩が使えない。
更に言えば、リチウムイオンが水と反応して爆発するとしたら同じアルカリ金属のナトリウムやカリウムまでイオンの状態で水と激しく反応すると言える。
リチウムイオン電池の事故に際して水を使えないと主張する方は爆発しないとおかしい。

また電気火災といえば電気火災だが、発火したリチウムイオン電池が機能を保っているとは思えない。モバイルバッテリー1つの規模ならばコントロールできるだろう。まさか濡れた素手で触るのだろうか。

結言

電気用品安全法は個人を対象にした法律ではない。よって、このように個人が個人的に使用する目的で材料を購入してモバイルバッテリーを組み使用するのは適法かつ自由である。

しかしPSE認証を受けている機器の使用を強く推奨する。

4300円も出してまで家を燃やそうとする必要はない。

うわごと

それはそれとしてこのモバイルバッテリーはこれと似ている。
容量も18650型リチウムイオン電池が8本入っていると考えれば妥当だ。

参考文献

統計データ:二次電池販売数量長期推移|一般社団法人 電池工業会
5年で2倍以上に!リチウムイオンバッテリー搭載製品の事故~モバイルバッテリーは購入時にPSEマークを確認しましょう~
METI CHUGOKU Latest NEWS - 電気用品の製品事故について
独立行政法人製品評価技術基盤機構 平成30年度の業務運営に関する目標(年度目標)

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