献血しにいこう!

献血しにいこう!

序論

今日は世界献血者デーです。
血液製剤の長期保存はできず、常に供給が必要です。なので皆さん献血に行きましょう。

というのは月並みです。誰だって献血が公共の利益になるのは理解できます。
今回はちょっと込み入ったところで、特殊な血液製剤の自給率の観点から献血の重要性、ついでに予防接種の重要性をについてお知らせします。

本論

現状

まず献血者総数について。献血者は2010年度より減少傾向にあり、現在は500万人を切っています。
この時点でより多くの人からの献血が必要だと分かりますね。

次に血液製剤の自給率について。そもそも血液製剤が何なのかといえば、ヒトの血液を原料として製造される医薬品の総称です。そのままですね。
大部分では100パーセントかそれに近しい自給率を達成しています。

しかし抗HBs人免疫グロブリン製剤(HBIG)など特殊な血液製剤に注目すると自給率は3パーセント前後です。
ここがちょっと問題です。

免疫グロブリン(Ig = Immunoglobulin)とは?

一休みしてIgについてです。
血液には様々な成分が含まれていますが、まず細胞成分と血漿成分に分けられます。Igは血漿成分に含まれています。
そもそもIgなんて言うからややこしくなるんです。IgとはB細胞が産生する抗体のことです。そう、侵入してきた異物に向かって投げられるY字型のアレです。
その抗体を精製したもの、免疫グロブリン製剤は重篤な感染症に陥った方や、自己免疫疾患の方に使われます。
ちなみに血液製剤らしく高いです。ヒト免疫グロブリンGは5グラムで38547円だったりします。

献血で材料は無料だろうに、と原価厨は思うでしょうね。

抗HBs人免疫グロブリン製剤(HBIG)

さてHBIGとは特殊なもので、通常の免疫グロブリン製剤と比べてB型肝炎ウイルスに対する抗体が多く含まれています。
用途もちょっぴり特別です。

まず新生児のB型肝炎垂直感染防止に使います。HBIGとB型肝炎ワクチン(HBワクチン)を使っての母子感染防止します。
1986年よりHBe抗原陽性の母親を対象に国の母子間垂直感染防止事業が始まりました。

また医療従事者の針刺し事故でも感染予防に使われます。医療従事者はだいたいB型肝炎の予防接種を受けていますが、抗体がつかなかったり年を経て抗体価が下がっている場合もあるので。

なぜHBIGを自給できないのか

本邦ではHBワクチン接種をしている方が少ないからです。

現在の生産年齢人口の中でHBワクチン接種を受けているのは海外渡航者か医療従事者くらいでしょう。
しかし海外渡航者は往々にして献血お断り率が高くなってしまいます。
そして医療従事者は全体と比較すると献血に行かれる方は多いですが、数で言うと足りません。
また多忙だったり、知らずのうちにウイルス感染していることを危惧して献血に行きたくない場合もあります。

どうにかならないのか

日本は清潔な国とされていますが、こと肝炎についてはそうでもありません。
1948年から1988年までの集団予防接種によるB型肝炎、1964年から1994年の血液製剤によるC型肝炎のことです。

極めつけに2016年10月までHBワクチンは定期予防接種ではありませんでした。やっと日本はWHOの勧告に応じました。
これからB型肝炎ウイルス(HBV)に対する抗体の保有率は増えていくでしょうが、彼らが献血可能になるまで時間がかかります。

なら今の人達がHBワクチンを接種したらいいんです。HBワクチンは全員が受けるべきです。90~10年代生まれの方は最も低いHBワクチン接種率を誇っています。
そして今になってB型肝炎患者は増えています。垂直感染を抑えても、性交渉に由来するB型肝炎が都市部を中心に増加傾向にあります。自分の身を守るために今からでもHBワクチンを受けるべきです。
特に最近流行っている性感染症としてのB型肝炎は慢性化しやすいジェノタイプAです。

HBVによる慢性肝炎について

HBVに持続感染すると、症状が特にある訳ではありません。しかしHBVはDNAウイルスで、増殖のために自らのDNAを感染細胞のDNAに組み込みます。
そうした遺伝子の変異と他の要因も相まって癌を引き起こします。ここまでほとんど無症状で見逃されがちです。
13年以内にHBV100万コピー/mL以上のB型肝炎感染者の13.5パーセントが肝細胞癌を発症します。

特に最近流行っている性感染症としてのB型肝炎は慢性化しやすいHBVジェノタイプAによるものです。ぜひ予防接種を受けてください。
とはいえ成人がするとなると、1発で5000円から1万円くらいして1シリーズに7ヶ月と負担も大きいです。
しかも成人してからだと、打っても打っても抗体がつかない場合もあります。3シリーズやってなおダメなんて人もいました。

しかし若い方は抗体獲得率が高く、持続期間も長いです。なので定期予防接種の対象になるお子さんには受けさせてください。
4歳未満でHBVに感染すると特に慢性化しやすく、体からHBVを除去することは不可能になります。しかも保育所におけるB型肝炎集団発生も報告されています。

頼みますから子どもに予防接種を、せめて公費負担される定期予防接種だけでもしっかり受けさせてください。お願いします。

結論

余裕があるなら献血に行きましょう。もっと余裕があるなら予防接種を受けてから献血に行きましょう。予防接種を受けてすぐは献血できないので注意してください。

もちろんマラリアの既往があったり血色素の関係で人によっては献血ができません。投薬を受けている方も、薬によりますが献血できません。それらは仕方ありません。

だけど、できるならやった方がいいです。お願いします。

参考文献

Risk of hepatocellular carcinoma across a biological gradient of serum hepatitis B virus DNA level. - PubMed - NCBI
薬害肝炎全国弁護団
厚生労働省 B型肝炎訴訟、C型肝炎訴訟について
B型肝炎ワクチンと母子感染防止
年代別献血者数と献血量の推移
平成23年4月1日から献血の可能年齢等(採血基準)が変わります
平成30年度第5回血液事業部会
感染症流行予測調査グラフ
あなたは献血したことある? 医師4600人に聞いた献血状況
B型肝炎ワクチン定期接種開始前の日本における小児のB型肝炎ウイルス感染疫学
Characterization of HBV integration patterns and timing in liver cancer and HBV-infected livers
B型肝炎 - 和歌山市 の小児科 生馬(いこま)医院|小児科
保育園におけるB型肝炎集団発生調査報告書

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