現代版七草の選定

現代版七草の選定

春の七草・秋の七草

今日は人日の節句で七草がゆを食べる日ですね。
お粥に入れる春の七草は芹(セリ)、薺(ナズナ)、御形(ハハコグサ)、繁縷(コハコベ)、仏の座(コオニタビラコ)、菘(カブ)、蘿蔔(ダイコン)です。
Wikipediaによると「7種の野菜を刻んで入れたかゆを七草がゆといい、邪気を払い万病を除く占いとして食べる。呪術的な意味ばかりでなく、御節料理で疲れた胃を休め、野菜が乏しい冬場に不足しがちな栄養素を補うという効能もある」そうで。ですけど本当に効能があるんでしょうか。
秋の七草もありますよね。女郎花(オミナエシ)、尾花(ススキ)、桔梗(キキョウ)、撫子(カワラナデシコ)、藤袴(フジバカマ)、葛(クズ)、萩(ハギ)の7つです。
秋の七草はお粥に入れませんけど、これらは生薬原料であるので何らかの効能があってもおかしくないでしょう。ただし味はきっと悪いです。キキョウのサポニンとかエグくて苦いと思います。
誰が七草を選んだのでしょうね。春の七草は『宇多天皇宸記』寛平2年2月30日条に由来、秋の七草は山上憶良が詠んだ歌が由来らしいですけど。
七草も時代と共に改訂してはいかがでしょう。グローバリゼーション時代ですし、海外の植物を取り入れたっていいです。
しかし今になって七草を選ぶとなると多少は根拠も必要です。美しさなんて見る人によりますし。
ともすれば人類への恩恵という点で医薬品関係で選びましょう。毎年承認される医薬品の半数程度が天然物に由来を持っています。そのまま成分だったり、化学修飾をしたり、構造を模倣したり。これなら自然派の方も安心ですね。
植物由来の医薬品に絞り、更にWHO必須医薬品モデルリストに収載されている医薬品に絞り、あとはもう独断と偏見で選ぶしかなくなりました。結果は以下の通りです。

現代版七草

ヤナギ(NSAIDs・アセチルサリチル酸の原料)

ヤナギ
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歴史はとにかく古く、ネアンデルタール人が鎮痛目的に使っていた可能性もあるとまでいわれています。
今でこそサリチル酸は外用薬でのみ使われるに留まりますが、その作用であるシクロオキシゲナーゼ阻害はNSAIDsの基礎になっています。

マオウ(交感神経β2受容体作動薬・エフェドリンを抽出)

マオウ
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エフェドリンは1885年(明治18年)に長井長義がマオウから単離抽出した。明治維新からそれまで漢方薬というものはガセ医療扱いでしたが、エフェドリンの単離抽出によって見直されました。
その後に化学的に弄ってヒロポンという形で濫用されたことを思うと、なんとも言い難いですけれど。

ハシリドコロ(抗コリン薬・アトロピンの原料)

ハシリドコロ
散瞳作用があるので、かつては瞳を大きくして美しく見せるのに使われていました。それによって中毒死する場合もあったようですが。
サリンなど有機リン系の毒物に被ばくした際に、対症療法的に使われます。ザ・ロックの終盤で使われていましたよね。

トウシキミ(抗インフルエンザ薬・オセルタミビルの原料)

トウシキミ
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いわゆるハッカクです。豚の角煮などに入っている香辛料です。
これも色々と話題になってしまった薬の1つですね。2016年に特許が切れて後発品も出回っています。
今でこそ化学的に収率の良い全合成経路が確立されたのでなんということもないですが、2007年頃に新型インフルエンザも相まって中国でハッカクの買い占めが起きました。もちろんハッカクに作用はありません。

キナ(抗マラリア薬・キニーネの原料)

キナ
日本はマラリアを問題にしていませんが、発展途上国では大問題です。
マラリア感染の危険が特に高い地域へ渡航する場合、もちろん防蚊対策が一番ですが抗マラリア薬を予防的に投与することもあります。
その場合に副作用の強いキニーネはまず使われないです。
トニックウオーターにキニーネが含まれています。中枢神経刺激薬であるストリキニーネとは全く違います。
キニーネは毒薬及び劇薬ではありません。
蛍光を示すので余裕があったらブラックライトでトニックウオーターを照らしてみてください。青白く光るはずです。

ヨーロッパイチイ(タキサン系抗がん剤の原料)

ヨーロッパイチイ
胃がんや乳がんに使われる抗がん剤です。作用機序は微小管ダイナミクスの抑制というなんとも分かりにくいものです。
薬を届けたい所に届けたいだけ届ける技術、ドラッグデリバリーシステムの開発が進んでいる医薬品だと思います。現にアブラキサン(R)は実用化されてます。
そういえば抗がん剤は天然物が由来の場合が多いです。まだ見ぬ作用機序を持つ抗がん剤に巡り会うために、我々は生物多様性を守る必要があるんでしょう。

ケシ(オピオイド・モルヒネを抽出)

ケシ
植物由来の医薬品としては女王といえるでしょう。名前がギリシア神話に登場する夢の神モルペウスに由来するくらいです。
種として離れているはずの植物が動物の受容体を作動させる物質を産生しているのはなぜなんでしょう。偶然でしょうね。ケシとしてはモルヒネの苦味で種子を食害から防ぐつもりなんでしょう。
麻薬成分を主に含むのは乳液だけなのでケシの実は売られています。七味にも入ってますが単体の味ってどうなんでしょう。

参考文献

七草 (2019-01-06T12:31Zの版)
Natural Products as Sources of New Drugs from 1981 to 2014. - PubMed - NCBI
WHO必須医薬品モデルリスト

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